オリブレSS「突っ込み道中その1」

何と無く早めに目が覚めて、朝食にするには小一時間程早いか、という時間。
剣和真は、とりあえず着替えを済ませてから、どうするかと思案する。
「……そうだ、朝稽古やってるっつってたな」
和真らはラストガーディアンに合流して日も浅い。
早いうちに話だけは聞いていたが、諸々の事情も重なって今日まで艦内道場を覗けなかったのだ。
「うし、行ってみるか」
心なしかうきうきとしながら―――実家にいた頃は父親との朝稽古は日課の一つだった―――稽古場に足を運ぶ。
近づくにつれ、竹刀か木刀を打ち合うような音、床を踏む足音、真剣で切りあう甲高い音、気合の声などの喧騒が聞こえてくる。
「……ん?」
何かひっかかったような。
「まぁいいか。チィッース……」
入り口をくぐろうとした所で、ばきごぐめきゃぁん!と吹き飛ばされた人が壁を突き破ったような爆音が轟く。
「いやそれどんな音だよ。……って」
入ってすぐ横の壁に人一人分くらいの穴が開いており―――壁を突き破ったらしい張本人がひっくり返って妙なオブジェと化していた。
「ありゃ、志狼か……!?」
顔は見えないがそれ以外の見える部分で判断する限り、それはブレイブナイツの御剣志狼だ。
何がおきたのかとぐるっと辺りを見回すと―――
道場の中央に「まだまだだな」とでも言いたげな表情の御剣剣十郎がおり、他の面々もちらりと目をやっただけで「ああ、またか」というリアクションを見せて各々の稽古に戻る。
ちなみに壁にめりこんだ志狼の隣ではエリス=ベル―――通称エリィ―――が愉快そうに痙攣する志狼をつついていた。
それだけ確認すると。
(つまりいつもの事なんだな)
あっさりと理解した。
「いやいやいやこれがいつもの事なのかよ!」
彼の良識はまだそれを許さなかった。
「おや剣君。どうかしたかね?」
入り口で立ち尽くしていた和真に剣十郎が声をかける。
「あ、いや……俺も朝稽古に混ぜてもらおうかと思って来たんですが……」
そこでちらと壁にめりこんだままの志狼に目をやる。
「ふむ、来るものを拒む事は無い。何ならワシが稽古をつけるが?」
「え、あ、じゃあ是非。お願いします」
剣十郎程の人間に稽古をつけて貰える機会などそうそう無い。
和真の父親もかなりの腕だったと思うが、この艦にいる「達人」たちには及ぶべくも無かった。
「んで―――」
再び志狼を見やると、傍にいたエリィが心配無いとばかりに笑顔を見せる。
まぁ、ならば大丈夫なのだろう。
「そんじゃ、お願いします」
一礼して、和真は剣を取る。



「朝……から、あんなん、かよ……」
朝稽古を終えて、這うように食堂まで移動した後、息も絶え絶えに和真は呻いた。
「大丈夫、和真兄ちゃん……?」
向かいの席に座っている準が心配げに顔を覗き込む。
「何とか、な……」
小一時間の稽古は、和真の体力を根こそぎ奪って全身に無数の青あざを作っていた。
それでも、圧倒的に手加減されていた。
それ位は分かる。
自分もそれなりの腕だと思っていたが、根本的に認識を改める必要がありそうだ。
「っていうか無理だろ」
稽古自体は非常に有意義なものだが、これを毎朝毎晩続けていたら確実に体が持たない。
「しばらくは他のとこに混ぜてもらうかなぁ……」
弱気な事を呟きながら並み居る「達人」たちを想像する。
ふと食堂の厨房を見ると、責任者の八道の他、秋沢雫や御剣志狼などの料理上手が調理を手伝っているのが見えた。
「…………! し、志狼あいつさっきの今じゃねぇか……!!」
あの後復活した後再び剣十郎に吹き飛ばされて壁に二つ目の穴を開け、終了する直前くらいにふらふらと道場を出て行った所までは見たのだが。
すでに平気な顔をしてリズミカルに包丁を動かしている。
「どしたの和真兄ちゃん?」
愕然とする和真を不思議そうに見て準が尋ねる。
「……頑張ろう」
和真は静かに誓いを新たにした。
「よくわかんないけど、頑張って!」
準がぐっと拳を握って激励した。


そんな感じで朝食を済ませた後。
何とか体の調子も戻ってきたようで、軽く伸ばしたりして各所の調子を確かめる。
「さーて、って今日非番なんだよな……どうすっかなぁ?」
午後からまた希望するなら稽古をつけてくれる、と聞いているので。早速お願いに行くとして、とりあえず午前中は暇になったわけである。
「まだ見てない所も多いし……艦内の散策とでも行くかな?
ちなみに準は?」
「瞬君たちと格納庫のところでバスケットしようって約束してるよ」
「そうか。怪我には気をつけてな。後艦内知らねー所多いから、一人で遠く行ったりするなよ?
何があるか得体が知れねぇんだから」
いたって真剣に忠告する和真に準は苦笑気味に頷く。
「あ、皆も来たみたい。じゃあ和真兄ちゃん、行ってくるね」
先ほど名前をあげた星崎瞬や、他にも何人かの子どもらが集まっている。
「おう、行って来い。お前らも怪我はしないように楽しんでこいよ」
軽く手をあげて挨拶してから、和真は踵を返した。
とそこに、腰まである長い黒髪の男が立っていた。
「うぉっ……古葉か。お前まで気配消して立ってんなよ……驚くから」
「悪い悪い。ところでお前さん―――」
まるで悪びれる様子なく、古葉真人は続ける。
「お前さん―――意外と保育士とか似合うな」
「やかましい」


その後もしばらく漫才じみたやりとりをしてから古葉と別れ、和真は艦内の散策に出た。
特に目的も無いので道にさえ迷わなければいい。
そう思ってぶらぶら歩いていると、突然通路の中央に埋め込まれた照明が点灯した。
丁度、センターラインのように見える。
「何だっけかこれ……確か聞いたぞ……えーっと……」
早く思い出さないと限りなく自分の身が危ないような気がする。
ラストガーディアンに合流時、事務担当だというリー兄妹から簡単に説明を受けた中にあった……
「ぅ思い出したぁっ!!」
言葉にするが早いか全力で壁際に飛び退る。
直後、目の前を突風のような勢いで真っ白いバイクが走り抜けていった。
”センターの照明が点灯すると、郵便部の白神葉月のバイクが通る”
「本とに艦内通路をバイクで走ってんのか……いや実際危なくねぇか、あれ?」
冷や汗を拭いながら、バイクの駆け抜けた方向を見つつ呟く。
「この艦全長1キロあるとか言うし、まぁあれのほうが早いのは分かるんだが……」
それぞれ適応して生活しているのなら、それでもいいのだろうか。
「……俺、やってけるかなー……」
今後の生活に一抹の不安を覚える和真だった。


またしばらくぶらぶらと歩いていると、突如目の前の壁がひっくり返ってそこから郵便戦隊の青木神無が姿を覗かせた。

「―――うおっ!?」
当然ひっくり返った壁に叩かれそうになり思わず和真はのけぞる。
「ん? ああ、君か。まだ新しい通路に馴れていなくてな。では失礼」
手元の紙(艦内の”地図”だろうか)を見比べながら、青木神無はくるりとひっくりかえった壁の向こうへと姿を消した。
「なっ、え、な!?」
慌てて神無が消えた辺りの壁を調べるが、勿論そこにはどんでん返しなど影も形も無い。
「そうそう言い忘れていたが」
「どわぁ!」
和真が壁をさぐっていると突然背後から神無に声をかけられた。
振り返ると反対側の壁に小窓が開いて、神無が顔だけ見せていた。
「な、何だ……?」
「購買のマッコイ姉さんが君に用事があるようだった。
暇があるなら行ってみてくれ」
いつものポーカーフェイスで淡々と告げる神無に、和真はこくこくと頷いて返事をする。
「では」
ぱたん、と小窓が閉じて神無が再び姿を消す。
勿論叩いても撫でてもそこはただの壁だった。
「いや、どうなってんだよ……この艦は……」
今に始まった事では無いが。
「……分からん」
得体の知れないのが多すぎる。
とりあえず、今は保留しておくしかないのだろう。
っていうかずっと保留しておくしかないよーな気もする。
艦内隠し通路の事はさておいて、和真は散策を再開する。
ほどなく、人の出入りが多い場所に出た。
「ん……ここ購買部か」
話は無論聞いているが(色々と)自分で足を運ぶのは実はようやく二度目くらいだったりする。
特に買うものも無かった事だし、微妙に縁が無かったのだろう。
店の中は雑多なスーパーかコンビニかといった風情なのだが、そこは天下の購買部、鉛筆からミサイルまで(あるんですか?)(残念ながら今日は切らしてるんすよー)(普段はあるんですか!?)何でも揃うと有名である。
「えっと……マッコイさんはいるか?……って何でお前がここに?」
「アルバイトよ」
レジカウンターで意味も無くブイサインをして見せたのは、和真と同じ世界から来た西宮麻紀だ。
戦闘に参加出来ない麻紀らは、普段は生活班の手伝いをしている。
購買部もその一つなのだろう。
「マッコイ姉さんは奥にいるわよ。ちょっと待ってて」
カウンターの奥にある扉に声をかける。
「はいはい、いやー和真さん、ちょーど良かったっすよ〜」
ほどなく笑顔も朗らかに謎だらけの購買の主ことマッコイ姉さんが姿を現した。
「実は和真さんにお渡ししたいものがあってっすね〜。あったっす」
がさごそとポケットをさぐり、封筒を取り出す。
「ほんの心づけっすけど、どうぞっす」
「何ですか?」
受け取って中身を覗くと、数枚の紙幣が入っている。
「……何でですか?」
全く心当たりが無いまま現金を渡されても困惑するだけである。
麻紀は知っているのか、「いいから受け取っときなよ」と言った。
「いやぁ、和真さんにはお世話になったっすから。気にしなくていいっすよ」
「いやだから、何の話で……」
理由も分からず現金を渡されて、素直に受け取るわけにはいかない。
「あれっすよ」
とマッコイ姉さんが指差した先にある物を見て―――

「ぶふぅっ!!」
思いっきり噴いた。
ポップにはでかでかと『全自動型突っ込みマシーン、カズマ君一号大好評発売中!』の文字。
「あ、あれ売ってんのか!?」
マッコイ姉さんと麻紀が二人そろってうん、と頷く。
いつだったか和真も見たが、和真をモデルにしたらしい玩具だ。
理屈は分からないが「ナンデヤネン!」という台詞とともに突っ込みを入れるという玩具。
「増産も決定したっす」
「しかも売れてんのか!!??」
「大好評よ」
「誰に!?」
「それだけこの艦突っ込み不足らしいっすね〜」
「ああ、大変なんだ……」
そしてそんな戦艦をまとめている艦長達に何だかよく分からない同情を覚えながら、今度機会があれば飲みにでも誘おう……とか思った。
「思った以上に売れたっすからね。だからのお礼っす。ささ、どうぞ」
言われて、手元の封筒に目を落とす。
「……いや、それじゃやっぱりもらえねーよ。
俺はアレ作るのには何もしてねーんだし、単なるイタズラなら怒るとこだが……
まぁそれなりに何かの役に……役に? 立ってるんなら。まぁ、いいだろ。
だからこれは受け取れない」
ほい、と封筒を返す。
(はぁ……聞きしに勝るお人よしっすね……)
(いい所ではあるんだけですね〜あれじゃ絶対損する性格ですよ)
「聞こえてんぞ二人とも」
顔を寄せてひそひそ言葉を交わす二人に半眼になって言う。
「いえいえ。それじゃあまた何か買いに来てほしいっす。その時はお安くするっすよ」
「ああ、よろしくな」
営業スマイルのマッコイ姉さんに和真は苦笑じみた笑顔を返した。


そんなやりとりを済ませて、またぶらぶらと歩いていると、やたら大きな荷物が―――もとい荷物を軽々と持ち上げた女性が視界に入った。
荷物はなにやら大きな箱と、丈夫そうな素材で出来た袋。
一抱えもあるそれらを片腕で軽々と担いで運んでいるのは郵便部の赤沢卯月である。
といっても和真はその名前自体は覚えていなかったりするが。
とはいえ人の良い和真の事、軽く会釈とともに声をかけた。
「重そうだな、手伝おうか?」
「お? ああすぐそこまでだから大丈夫。ありがとな」
えーと、と何かを思い出そうとするような表情に、
「和真だ。剣和真。よろしくな」
「おーそうそう。あたしは郵便部の赤沢卯月。よろしく。あんたんトコの二人には色々世話んなってるよ」
普段、先ほどは購買でアルバイトをしていた麻紀や準らが手伝いをしているらしい。
「そうか。迷惑になってなきゃいいんだが」
「何の何の。随分助かってるよ。普段から手伝いに入ってくれるヤツってそんな多くないからね」
世間話じみた事を一言二言かわしていると―――
「あ、皐月!」
突然目を丸くした卯月の視線を追って和真が振り返ると、つたたたーっ、とばかりに廊下の角にツインテールが消えるのが見えた。
卯月の言葉からして、そこを駆けて行ったのは同じく郵便部の桃井皐月だろう。
「あいつまたサボって出てきたな! 葉月も神無も暦も出払ってるから……っ!」
歯噛みする卯月は僅かに逡巡した後、
「悪ぃ和真、これ郵便部まで持ってって! 廊下突き当たったらすぐだから!」」
「お―――ぅ、おわっ!?」
ひょいとばかりに投げてよこしたあたり割れ物でも無いのだろうし、箱が大きいだけで軽いのかと受け止めようとした。
が。
「うぉこれ重……っ!」
慌てて踏ん張って両腕に力をこめ大きな荷物を抱える。
何とか姿勢を持ち直した頃には卯月は、皐月を捕まえるべく、廊下の角に消えた後だった。
「えっと……とりあえず郵便部に持ってけばいいんだ、な……?」
言われた通り廊下の突き当たりまでよたよたと歩き出す。
「しかし、こ、こんなもん片腕で持ってたのかよ……どんな怪力だ……っ!?」
艦内には一筋縄でいかない人間が多い。
ていうか多すぎるような気がする。
改めて今後の生活に若干の不安を覚えつつ、少し歩くと見慣れぬ部署が見えた。
「んー……? ああ、ここが郵便部か。そういや初めて見るな……」
郵便戦隊の面々には偶に出会う事もあるが(先ほど轢かれかけたり背後をとられたり荷物を投げられたりしたが)部署を見るのは初めてである。
手紙などを出したり或いは受け取ったりするような機会はほとんど無いし、まぁ和真には縁の無い場所の一つだ。
「とにかく、これどっか置かねぇと……」
流石に腕がしびれだしている。
正直早く置きたい。
具体的に何処かは分からないので、受付窓口から誰かいないかと中の様子を覗く。
通称「郵便戦隊」と呼ばれる郵便部のメンバーは現在6名だと聞いているが、今は中にいたのは首元に緑色のリボンを巻いた、ややおっとりそうな印象を受ける女性、そんな所が癒し系と密かに人気―――緑川弥生だけだった。
(えーと緑色だから……緑川、だったな)
それぞれの名前に色名がついている辺りも郵便戦隊という通称がつけられた理由であるとか何とか。
直接顔をあわせる機会もそう多くは無い和真が名前を覚えていたのは一重にその特徴が印象に残っていたためである。
先ほどの卯月も赤がついた名前だった事までは覚えていたのだが。
微妙に失礼な奴だ。
「うるせ、名前覚えたりするの苦手なんだよ……」
だから地の文に突っ込まないで下さい。
弥生は何をするでも無くぼーっとしているようで、手元の文房具……というかカッターナイフを見つめていた。
(何やってんだ……?)
静かにちきちきとカッターナイフの刃を伸ばしたり戻したりしている。
「まぁいいか、えっと、み―――」
「……くすっ」
ぞわっ、と悪寒が走り思わず和真は半歩下がった。
一瞬何か物凄いオーラが見えたような気がしたのだが。
弥生は相変わらずぼんやりカッターナイフを見つめている。
「…………あ、あのー…………」
和真は何だか物凄い不安に駆られて恐る恐る声をかけた。
「―――あら」
ふと気がついたように顔を上げて、呼びかけた和真のほうを見る。
「ごめんなさいね。何かご用でしょうか?」
やや名残惜しげにカッターナイフを置き、軽く頭を下げて言う。
「いや、さっきそこでこの荷物を持ってくように……卯月に言われて持ってきたんだが」
「まあそうでしたか。仕分けがありますのでその箱はこちらに、袋のほうは……」
指示された場所に置き、和真はようやく重い荷物を下ろす事が出来た。
「やれやれ……」
しびれかけている腕を軽く揉んで息を吐く。
「ところで卯月はどちらに?」
「ああ、えーと……皐月、だったか。そいつを追っかけて行ったけど」
「あらそういえば皐月がいませんね。また抜け出したのでしょうか」
気づいてなかったのかよ、と思わず口に出しかけて、
(あの様子じゃぁまぁ気づかねぇかもなぁ……)
何だかぼんやりしていた様子を思い出して―――ついでにぞっとする笑みも思い出して冷や汗を浮かべて肩をすくめた。
「すいませーん」
「あ、はい今行きます。それじゃあありがとうございました」
呼ばれ、弥生は和真に一礼してとてとてと小走りに窓口のほうへ移動する。
「今日はどういったご用件でしょう?」
とりあえず用事は済んだので、和真は郵便部の部屋を出た。


また目的無く歩いていると、和真は知らず格納庫までやって来ていた。
「んん? そうか、このルートで格納庫までやってこれるわけだな……」
頭の中で簡単にマッピングしながら広大な格納庫を覗く。
たくさんの勇者達を集めるという目的のため、面積をかなり広くとってあるのだが、普段は携帯出来る状態になっている召喚系の勇者が予想より多かったため、現在でもまだ割りと余裕がある。
スペースを余らせていても何なので、倉庫代わりとかレクリエーションの場として活用されているらしい。
「そういや準がバスケットするって言ってたな……」
ゴールポストが設置され、格納庫の一角がバスケットコートとして整備されている。
最初に設置したのが誰かは知らないが、そこを利用している者は少なく無い。
漠然と声の聞こえる方に歩いていく。
広い上に様々なメカが置かれているため、入り口からは死角になる場所も多い。
バスケットコート以外にも色々作られているらしいが……
「うん、でも砂場は無いだろ砂場は」
格納庫の中には、かなり大きめな砂場が作られている。
一般に砂場と聞いて想像するような規模より二回りは大きいだろう。
何でこんなに広い砂場があるのかというと……
「今日は大きいお城を作りますよ〜」
にこにこしながらぺたぺたと砂の山を叩いてお城を作っているのは、身長5メートルほどのワインレッドカラーのロボット―――ラシュネスである。
彼のために、人の良い整備部のおじさんが作ってくれたらしい。
「何をやってんだかな……」
戦闘艦とはいえ、こういう余裕があるのは悪いとは思わないが……
思わないが……
「……ま、それもいいか」
余りに楽しそうなラシュネスの笑顔に和真は苦笑をもらして言った。
ちなみにサヤも時々ここで遊んでいるらしい。
今日のところはブリッジ業務についているため居ないが。
ふと、思う。
(三人とも……良い友達が出来てんのは良いんだが……)
それによって自分の気苦労が増えているような気がするのは、何でだろう。
「んで、お前は何やってんだ、トーコ?」
楽しそうに砂場遊びをするラシュネスの横で、ビーチパラソルをたててチェアに寝そべった姿勢のトーコがいた。
「バカンスごっこ」
「砂浜じゃないから」
ご丁寧にトロピカルジュースまで用意している。
今日は気候も良いし、ここも結構暖かいようなので、まぁそんな気分も満喫出来なくは無いかもしれないが……
「余裕ありすぎだろこれは」
「だってなっかなか出かけらんなくってさぁ〜最近じゃ小物がよく出てくるようになったしねー」
一応和真も話は聞いているのだが、トーコらは艦内に出没するトリニティの退治を役割としている。
ブリットらの「トリニティ予報」もあって随分と対処し易くはなったが、それでも緊急の事態を考えるとそうそう主だったメンバーが艦を離れるわけにもいかない。
「今日も”所により俄トリニティ”とか言ってたしさ〜」
「いや俄トリニティって何だよ。あいつらいつも唐突だし……とかいう問題でもねーか」
あーあ、と不満げにトーコが伸びをする。
流石に一人で出かけてもつまらないだろうし。
なのでいつもは某剣士とか某忍者が連れまわされる事が多いのだが。
今日は出かけるわけにも行かないのだろう、彼女の家であるランド・シップから近い格納庫内の砂場でのんびり?しているらしい。
「あんたも混ざるぅ?」
「遠慮しとく」
そー、と気のない様子のトーコに苦笑しながら、和真は砂場を離れた。


その後準らのバスケットを観戦したり、集まってきたやや年齢層の高めのメンバーに混じって和真も汗を流したりしてから、昼食時。
時間が時間なので盛況であり、席はほとんどが埋まっている。
「どっか空いてっかな?」
「あ、和真兄ちゃんあっち」
折りよく二人分の空席がある。
その向かいに、勇者忍軍の風雅陽平と翡翠が座っていた。
「よう、和真」
「よう」
軽く手をあげて挨拶する陽平に習って、翡翠も同じように挨拶をする。
ある種微笑ましい様子に笑顔を浮かべ、確認をとり腰を下ろした。
「何だ、まだ決めては無いのか」
翡翠がメニューとにらめっこしながら何を注文するか考えているらしい。
それを横で見ている陽平と二人分、水の入ったコップとおしぼりがあるだけである。
反対側から翡翠の手元のメニューを覗き込む和真らの顔を見て、陽平がにやりと笑顔を浮かべ、
「喜べ翡翠、和真が何でも好きな物おごってくれるらしいぞ」
「何ぃっ!? ……あ、あー、いやまぁ、いいけどさ」
陽平の言葉に嬉しげな顔を見せた翡翠を見て、流石に断れずに渋々ながら承諾する。
こういう所がお人よしたる所以であろうが。
「折角だし、準も何か好きなの選べ」
「いいの?」
小首を傾げて確認する準に、和真はああ、と笑いながら返す。
こういう所が親ばかたる所以であるのかも。
「んじゃ俺はCセットの大盛りな」
「いやお前は遠慮しろよ」
ちなみにCセットが一番高い。


午後にもみっちり稽古をつけてもらい、夕食なども済ませて部屋に戻る。
「何か今日はやたら疲れた……ちょっと早いけど、もう寝るか……」
服を脱いでハンガーにかけ(意外と几帳面)ベッドに倒れこむ。
何か、心地よい疲労感を感じる。
色々あったが、トリニティの襲撃も無く、比較的穏やかな日だったと思う。
「明日も、平和だと、いいな……」
『ナンデヤネン!』
「うわぁぁ!?」

続……かない

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