オリブレSS「激闘!決戦グレートアークセイバー」



「ここいらはこれでラストだな……!」
和真は周囲を確認し、前方に残った数機の怪ロボットに集中する。
各所に複数展開していた量産型ロボットを、各個撃破で対応することとなった。
このエリアにはアークセイバーの他数機が出撃していたが、今は掃討戦も終わろうとしていた。
(だからって気を抜くな……)
自分に注意を喚起しながら、ブレイバーソードを握りなおす。
今回現れた敵ロボットは、四肢を持つ人体を模したような形ではあるが、特筆出来るような特徴は一様に持った棍棒程度で、ややぞんざいな印象が拭えない。
戦略的にはともかく、戦術的に意味があるとも思えない散発的な攻撃をしたのみで、対処は厄介ではあったが到底恐るべきことはない―――
増援を警戒しラストガーディアンに残った戦力を除いても、苦戦することはないようだった。
はっきり言えばやる気の感じられない戦闘に多少なり気が緩んでいたこともあったかもしれない。
だからこそ、最後の一機を倒すまで、和真は自分へ油断するなと言い続ける。
「―――ラスト!」
レーダーから確認されている敵影はすでに残りひとつ、眼前の妙な仮面をつけたロボットへ向かう。
(指揮官機か? だが、これで!)
はたしてアークセイバーの剣は、あっさりと敵ロボットを両断する―――
「――――――な!? しまっ―――」
その切断面から、液状とも霧状ともつかない真黒な何かが吹き出しアークセイバーの視界を覆った。


「―――!?」
眼前の相手を反射的に切り捨てる。
一瞬意識が飛んだかもしれない。
わずかな焦りを感じながら次なる敵へと備える。
まだまだ敵は多い、一時も気を緩めるな。
仲間たちを鼓舞するためか、己に言い聞かせるためか絞り出すように言い放ち、剣を構える。
そうだ、ただ一つ、彼女を―――彼女の世界を守るために。
戦う――――――!
見渡す限りに展開していた敵機も、数えるほどまで数を減らし、いつしか最後の一機を切り捨てた。
「―――はぁ、はぁ、はぁ」
倒れこみそうな体を支え、荒い息を整える。
(終わったか?)
まだまだ終わりではない。戦いは続く―――
(終わりはしない―――)
ただただ彼女を守るための戦いが―――
(そうだ、終わりはしない)
力無い躯体を左腕にかき抱き、右腕の剣をふるう。
(そうとも、お前の戦いは終わらない―――)
(そうだ、俺の戦いは終わらない―――)
償うための戦いは終わらない。



「ヴォルライガー―――志狼!」
「陽平……クロスフウガか。そっちも終わったか?」
多数展開していたロボットを各個撃破する戦いは苦戦こそしなかったが楽なものではなかった。
「ああ。竜斗、そっちも問題ないか?」
「大丈夫だ」
それでもすべてのエリアで戦闘は終わったはずだ。
周囲を油断なく警戒しながら、順次ラストガーディアンへ帰還している。
今回ブレイブナイツや勇者忍軍、幻獣勇者らは遠方の戦闘エリアへ出撃したため殿を務めるように各エリアの様子を確認しながら帰還する途中だった。
「確かこのあたりは和真さんたちが出撃してたはずだ」
志狼が記憶をたぐり誰となく言った。
「……ん? アークセイバーはまだ残ってたみたいだぞ」
呆然と立ち尽くす青い機体を見つけ、クロスフウガ―――陽平はそちらへ近寄る。
「和真……?」
近寄っても気づく様子がなく、訝しげに陽平はその背中に声をかける。
何かダメージを負って動けないのか?
見たところ大きな外傷はなさそうだが……
と、アークセイバーが首だけゆっくりと振り向いた。
「聞こえてんなら返事くらいしろよ……?」
よぎる違和感に陽平は眉をしかめる。
「! 下がれ陽平!」
ずどんっ!と鈍い音を立てて、アークセイバーの剣が振り落とされた。
「何しやがんだ、てめぇ!?」
「………………」
今まで見たこともないような突き刺すような殺気を漲らせ、アークセイバーが剣を構える。
「様子がおかしい―――? 和真さんっ!?」
「何やってんだ!?」
訓練で手合せしたことなら何度かある。
戦場で肩を並べて戦ったことは一度や二度ではない。
それでも今まで見たことのない鋭い殺気を受けてクロスフウガが油断なく斬影刀を構える。
「なんだ―――おい!?」
尋常でない様子にヴォルライガー、ロードエスペリオンらもアークセイバーを囲む。



例えば、こんな状況があるとしよう。
二艘の船が浮かんでいる。
片方には100人の人間、もう片方には1人の人間が乗っている。
そして、何の事故かその二艘はほぼ同時に沈没しはじめた。
あなたには船を修理する技術と道具があった。
だが、どれだけ急いでもあなたはどちらか片方の船しか修理することは出来ない。
どちらかの船だけを助け、もう一方の船は見捨てるしかない。
だとするならば、あなたはどちらの船を救うだろうか?
より多くの人間を助けることが出来る船、というのも一つの答えだろう。
ならば、もう一方の船に乗る一人が、あなたにとって最愛の誰かだったならば、どうだろうか。
どちらが正しいということはない。
だが、彼はそのたった一人を助けようとした。
そのたった一人の彼女の笑顔を守りたかった。
だからこそ、彼女の望み通り、彼は100人が乗る船を助けた。
たとえそこで彼女を助けられたとしても、100人を見殺しにすることで彼女の笑顔が失われると、分かっていたからだ。
多くの人間が喜び、そして悲しみ、しかし納得した結果だったはずだった。
だが―――彼だけは。
いつまでも、彼女を見捨てたことを後悔し続けた。
たとえ彼が彼女を助けたとしても、彼女を救うことにはならなかったのだと―――分かっていても。
100と1人を船に乗せてしまったのが、ほかならぬ彼だと知っていたからか。
その船が沈んだのは彼の非力故と、思っていたからか。
『ならば―――償いをしなくてはね?』
昏い声が、囁く。

『―――超武装合体。』
アークセイバーは三機のサポートメカを呼び出し、全身を武装する。
「どういうつもりだ! 和真!」
「どうしたんだよ、和真さん!」
『戦う―――守らねばならない!!』
完全武装で臨戦態勢のグレートアークセイバーを囲み、三機は油断なく武器を構えた。
事情は分からないが、戦わずにもいられそうにない。
『私は彼女を―――小夜を守るために戦う……!』
「なんでサヤが出てくんだ?」
うわ言のように呟く言葉を聞きとめた陽平が思わずこぼす。
『私は小夜を……守ることが出来なかった……生を奪ってしまった償いをしなければ……戦わなければならない……!』
はたしてそれは自分に言い聞かせる言葉なのか、ぶつぶつと呟き続ける。
「サヤの……生命を……奪った? ってどういうことだよ……?」
「陽平!」
「!!」
志狼の声がかかる直前に、ほとんど無挙動で放たれたビーム攻撃を反射的に陽平は交わしていた。
「何だかしらないが聞いてる場合じゃないぞ! 陽平!」
「分かってら、今は止めるぜっ!」
「何となくだが、今アークセイバーがかぶってる妙な仮面が怪しいと思う」
至極真面目に指摘する竜斗。
なるほど確かに、普段はそんなものを装備していない、露骨なまでに怪しい仮面がアークセイバーの顔を覆っていた。
「仮面かぶった奴にゃ嫌な思い出しかねぇな……」
陽平がぼそりと呟く。
「洗脳装置か何かかもしれないな。あれを壊してみるか」
三人の歴戦の勇者としての勘が全力で告げている。
それほどまでに、あの仮面が与える印象はただひたすら黒く、暗い。
『戦わなければ……』
熱に浮かされるような声とは裏腹に、何の感情もこもっていないような冷たい攻撃が勇者たちを襲う。
間断なく降り注ぐビーム砲とミサイルの掃射。
一発一発がそれほどの火力でもないはずだが、癖のない射撃が近寄る隙もつかませない。
「少しくらいの怪我は我慢しろよっ! 裂岩っ!」
クロスフウガの投げた大型の手裏剣は弧を描き、グレートアークセイバーの火線をくぐるように飛んだ。
しかしグレートアークセイバーがそれを一瞥すると、裂岩は機体に届くことなく、展開された力場を切りつけただけでクロスフウガの手元へと戻る。
「アーマードフィールド……そっちからだけ撃ち放題ってわけかよ!」
陽平らの持つ遠距離武装では有効なダメージを与えられない。
奇しくも、彼らは三人が三人とも近接戦闘のほうを得意としている。
ならばやはりまずは接近しないことにはらちがあかない。
「上からならどうだ!?」
クロスフウガに注意の向いた一瞬に、ロードエスぺリオンがグレートアークセイバーの上空から一気に駆ける。
それも把握していたか、無駄のない挙動で振り下ろされたロードセイバーを交わすと、再び上空へ戻るロードエスぺリオンを追ってグレートアークセイバーも空を駆けた。
「くっ!? 速い!」
恐らくは、単純に機動力だけならクロスフウガなどのほうがより速いだろう。
だが、出力で勝っているグレートアークセイバーの飛行速度は、ロードエスぺリオンのそれをわずかに上回っていた。
高速で間合いを詰められてしまった竜斗は、踏ん張りのきかない分やや慣れない空中での剣戟を受け止める。
ロードセイバーでグレートアークセイバーが両手に構えた片刃の剣をさばく。
「背中が開いてんぞ!」
空中で打ち合う二機を追って勇者忍者がさらに上をとった。
「風遁解放―――フウガパニッシャー!!」
ロードエスぺリオンは術の発動より一瞬速く飛びのき、残されたグレートアークセイバーを高密度に圧縮された風が押しつぶす。
「ダメージが通らなくても―――」
グレートアークセイバーはフィールドごと地面にむけて真下に吹き飛ばされた。
「よし、ドンピシャ―――!」
落下地点で風圧を受け止めるため一瞬動きを止めたグレートアークセイバーを追って、雷の牙が迫る。
「御剣流奥義―――」
防御も回避も不可能な、超高速の”悪を斬る剣”。
「轟雷斬ッッッ!!」
落雷のような轟音を鳴り響かせ、ナイトブレードを振り下ろすや駆け抜けたヴォルライガーが、何メートルも地面を削りながらブレーキをかける。
狙いは一点、あの仮面だ。
活人剣として、その圧倒的なまでの破壊力からは想像出来ないほどの繊細な一撃を放つ御剣流の奥義は、その実武器破壊に特化した技でもある。
なればこそ、仮面だけを斬り落とすということも可能だと疑わなかったが―――
「―――マジかよ」
グレートアークセイバーは翳していた大剣をおろし、構えなおした。
「防御も回避も不可能な轟雷斬を―――凌いだ!?」
鉄壁のフィールドと冷徹なまでの判断、コンマ以下の繊細な動きを可能とした技量―――
剣の守るという誓いと、その剣を守りたいとする彼女の願いが生み出した星の剣は、何一つ零すまいとする、鉄壁を誇った。
『守るんだ……』
悲痛なまでの意思はしかし、一切の澱みを感じさせない、冷徹で無慈悲な機械によって完成されていた。
一点の曇りなき冷たい刃のような―――
共に剣の道を極めんとする二人の勇者は、恐らくより強くそのことを感じていた。
普段の彼にあったような迷いや葛藤を抱えながら静かに受け止めようとする姿勢や、あるいは彼らが持っているひたむきなまでにまっすぐな意志、彼らの師が持つような圧倒的な自信や覚悟、そんなそんなそんな―――
そんな何かが、この剣からは―――何も感じない。
極めんとする道こそ違えど、やはり志を同じくする忍びとて、それは同じだ。
「守る守るって―――」
彼がうわ言のように呟き続ける思いはしかし―――
「今のテメェは空っぽなんだよ!」
戦うがために戦う姿となって、彼の最高の力を引き出していた。



「一体どういうことなの!?」
「陽平さんからの通信では、アークセイバーが暴走状態にある、と。現在クロスフウガ、ヴォルライガー、ロードエスペリオンの三機が対応しています」
律子が詳細を問い直すと、メイアが落ち着いた声で答えた。
各地での戦闘が終了した報告があり、戻らない機体があるというのだ。
「アークセイバーが……? サヤさん―――!?」
律子は反射的にメイアと逆のオペレーター席にいるはずの少女に向き直る。
だが、そのシートはすでにもぬけの殻となっていた。
「サヤさん、どこに……!? まさか?」



次いで、格納庫。
ヴォルライガーらが帰還しないという報告があり、今回伏兵を警戒するため後方待機していたブリットとユマは発進の準備を急いでいた。
警戒態勢を解いていなかった甲斐もあって、それはすぐに完了し、すぐにでも出撃出来る。
「ブリットさん、どういうことでしょう? アークセイバーが暴走しているって……」
「それを確認しに行く」
そこに―――
「ブリットさん! ユマさん!」
「サヤさん?」
飛行形態のルシフェルのコックピットを見上げる一人の少女。
誰であろう、アークセイバーと共にこの艦にやってきたオペレーターアンドロイド、サヤだ。
「私も連れて行って下さい」
「そんな、でも……」
急な申し出にユマが困惑の色を浮かべて語尾を濁した。
確かに、アークセイバーに何かあったのなら、彼女が同行するのは適任だろう。
しかし従来からブリッジクルーとして前線に出ることのないメンバーであり、急なこととはいえ事態の詳細がはっきりしない今回のような件で彼女のとる行動としては、いささか違和感がある。
「分かった。乗れ」
「ブリットさん?」
即答したブリットの態度にユマは少し意外な気がして声をあげた。
「時間が惜しい」
淡々といつものように言うブリットにユマもそれ以上何も言えず、サヤが予備シートにつくのを手伝う。
「でも、サヤさん……私が言うのも何ですが、何があるか分かりませんよ? ここは私たちに任せていただいても……」
「お気づかいありがとうございます。でも、大丈夫です」
気遣わしげな声をかけるユマに、サヤはいつものような温かい微笑みをかえす。
「私は、このような時のために作られたのですから」
その優しい微笑みに、わずかな違和感がよぎったことに、ユマは気付かなかった。


『俺は……彼女を守るんだ……』
とりつかれたようにその言葉を繰り返す姿に、いつしか三人は言葉も失っていた。
『私は……彼女を守れなかった……』
”死角がない”というただそれだけのことが、こうまでやりにくくなるとは。
『だから戦うんだ……』
『だから戦うんだ……』
ヴォルライガーほど鋭くも、クロスフウガほど迅くも、ロードエスペリオンほど巧くもない。
恐らく、それぞれの能力や技量においてグレートアークセイバーと剣和真を上回る人間は多く存在する。
しかし、これほどまでに攻めあぐねる相手がいるだろうか。
攻めるにせよ守るにせよ、それぞれの持つ特技、特徴それらが、どうしても弱点へとつながりやすい。
例えば屈指の機動力、素早さを誇るクロスフウガら忍巨兵は、そのスピードを生み出すためにどうしても他のロボットに比べ装甲が薄くなる。
”当たらなければどうということはない”ということは、”当たってしまえば無傷ではいられない”ことと常に表裏の関係にある。
だが各種の武装合体と、それらを扱いこなすある種の器用さにより、彼はおおよそ戦場、戦局をもっとも選ばない。
その鉄壁さは、皮肉にもまるで戦闘機械のように感情を失ったことで、遂に完成されていた。
志狼も、陽平も、竜斗も勿論まだまだ戦える。
だがほとんどの攻撃は無効化され、的確な反撃はじわじわと三人の体力を削り取っていく。
「昔っからな、洗脳やら正気失った奴ぁ、後頭部ブン殴れば目ぇ覚ますのがお約束なんだよッ!! ……が、意地でも殴らせねぇつもりだな、和真さん」
志狼が慣れない冗談を飛ばす。
それを聞いて竜斗は、はは、と力なく笑った。
(ヴァルフウガが使えればあのフィールドも突破出来るかもしれねぇが……)
陽平のもう一つの刃である忍者闘士ヴァルフウガの出力ならば、あの強固なアーマードフィールドも突破出来るかもしれない。
だがあいにく蒼の竜王は前回の出撃からシステムに不具合が生じて調整中だ。
無理やり出撃させてもかえって力を発揮出来ないだけだ。
「このままもたせれば、増援はくる……が」
「いつまで持つかだな、俺たちも、あっちもだ」
すでにずいぶん時間が経過している。
あれがどういう状態かは判然としないが、時間がたてば元通りになるような簡単なものではないだろう。
個人差はあれど、合体状態を長く続ければそれだけ本人も疲弊していく。
あまり時間をかけたいものでもない。
と―――
ぎらり、とグレートアークセイバーの仮面の下の瞳が光った気がした。
「―――ッッッ!!!!」
全砲門が解き放たれ、容赦のない熱の奔流が三機に降り注いだ。
突然とはいえ正面からの砲撃をまともにくらうほど油断を見せる三人ではない。
しかし着弾による爆風と巻き上げられた土埃が一瞬視界を覆う。
上空に飛び上がったロードエスペリオンは、突然飛び出した刃の乱気流に全身を斬り裂かれた。
「がっ―――ぐ!?」
反射的にたてたロードセイバーの刃がなんとか急所を両断されることを防いだが、刹那の間だが意識を刈り取られ地面に落下する。
「竜斗!?」
同じく上空に身をかわしていたクロスフウガは、ロードエスペリオンを斬り裂いた竜巻の正体をはっきりと見つけていた。
誰あろう、グレートアークセイバーの乱撃技、スラッシャータービュレンスだ。
空を駆け抜けたグレートアークセイバーが下になったクロスフウガを見下ろす。
「―――っな!?」
その瞬間、まさに金縛りでもあったかのように全身の動きがとまった。
いや、全方向から押さえつけるような力がクロスフウガの動きを絡め取っている。
「しま―――」
そのまま胴を撃ち抜かれるような拳を叩きつけられ、体をくの字に折り曲げながら吹き飛ばされる。
「竜斗! 陽平!」
上空であっという間に二機を蹴散らしたグレートアークセイバーが、上空からヴォルライガーに向けてふたたび全砲門を構えた。
「電光石―――」
超高速移動術で射程圏外に身をかわそうとした雷の化身を爆発的に燃え広がる炎が舐めつくす。
「ぐぁっ!?」
爆圧で紙切れでも舞うように吹き飛ばされた。
『戦うんだ―――』
圧倒的な力を発揮しておきながら、グレートアークセイバーは無感動に着地しただけだった。
『戦わなければ―――』

「これは……!」
大きな爆発を確認し、急行したウォルフルシファーが見たのは、倒れ伏す三機の勇者と、無感動に立っている仮面をつけたグレートアークセイバーの姿だった。
「皆さん……大丈夫ですか!? 返事して下さい!」
全員息はあるようだが、気を失っているのかユマの問いかけに返事がない。
「アークセイバーがやった……ということだろうな」
「そうですか……アークセイバーが……」
確認するように言ったブリットの言葉に、サヤが思うところがあるのか静かに反駁した。
「っ―――特殊な波長の微弱なエネルギー波を確認……やはり催眠に近い状態です。ブリットさん!」
「あの仮面を砕けばいいんだな」
淡々とブリットは銃を構えた。
予想外なほどの戦闘力を見せた相手だが、それでも何ら気負いもないのは、彼らしさと言えるだろうか。
「待って下さい、ブリットさん」
そこへ、サヤが声をかける。
「―――何だ?」
油断せずグレートアークセイバーに注意を向けながら、先を促す。
「私が彼の注意をひきます。そこを狙ってください」
「なっ―――」
ぴくり、とブリットも反応する。
連れてこそきたものの、正直それを期待していたわけではない。
「彼は私の姿を無視出来ないはずですから」
いつもと変わらないトーンで告げる少女の姿に、何かの違和感を感じるが……
「私は、このような時のために作られたんです」
静かな頑固さをのぞかせる彼女に、ブリットは他人に分からないほどに小さく舌打ちする気分だった。
「―――分かった」
「ブリットさん!?」
今の彼の姿に、ブリットもまた何か思うところがあったのだろうか。
「ありがとうございます」
ウォルフルシファーがのばした手の上に、サヤは立ちはだかった。
「…………」
ユマが落ち着かない様子でサヤと志狼たち、眼前のグレートアークセイバー、そしてブリットの背中へと視線を巡らせる。
サヤは髪をおさえるヘッドセットを取り払うと、軽く頭をふってその長い髪を風に踊らせる。
「―――アークセイバー!」
呼びかけて、迎え入れるように両手を広げて見せる。
『あ―――』
無防備に、思わず、と言った体でがしゃん、とグレートアークセイバーが一歩前に出る。
完全に呆けたようなその隙を見逃すほど、ブリットは甘くなかった。
繊細にサヤを掴み直すと半身を翻し、エンジェマグナムをグレートアークセイバーの額に―――その仮面につきつける。

「すまんが時間はかけてやれん」
一瞬の躊躇なく引き金を引いた。
がいん、とひたすら鈍い音をたててグレートアークセイバーがのけぞる。
「どう―――!?」
身を起こしたグレートアークセイバーの仮面は、銃痕から無数のひびが走っていたものの、いまだ砕けることなくそこにあった。
『うう―――』
(浅かったか―――!?)
『戦わねば―――』
機械の合成音のような声音にも関わらず、そこ声は何処までも悲痛だった。
「何故―――お前はそうまでして戦おうとする? 他の生き方を知らないお前では……ないだろう?」
さすがに先ほどのように無防備に仮面をさらしてはおらず、ブリットは油断なく銃をつきつけながら引き金をひけずにいた。
機械のように隙のない―――今の姿に、ブリットは微かな郷愁めいたものを感じていた。
今の彼が―――本来の彼の戦い方だったとするならば、彼もきっと何かを見つけたのだ。
ブリットは背中で彼を見守る彼女のことを思い出さずにはいられない。

『私は―――救われていたのだ。癒されていたのだ。守られていたのだ。彼女に、彼女の笑顔に―――』

意識が戻っているわけでもないだろうが、半ば夢うつつのような声でグレートアークセイバーが答える。

『私には返しても返しきれない恩義がある。そして……贖いきれない罪がある……!』

苦悩するような言葉とは裏腹に、グレートアークセイバーは一部の隙も見せない。

『私が……彼女の前に現れてしまったから……彼女は……あの優しい世界にとどまれなかった……』

吐き出す言葉は後悔か。

『何が守るだ……私は彼女も彼女が守ろうとしたものも何一つ守れてなどいない!!』

彼を守ったのは、彼女だった。

『子供らは笑わなくなった……私は彼らの前に姿を見せることが出来なかった。沈む彼らを見るのが辛かった……いや。 そうだ、私は彼らの笑顔を奪ってしまったことを恐れたのだ。私が戦えば……また誰かが失われる……』

擦り切れた心をいやしたのは彼女だった。

『誰かを救うために戦えば……誰かが傷つき誰かが失われるのだ。だが戦わなければもっと多くの誰かが失われてゆく!』

戦う力を失いかけた彼を守ったのは、彼女だった。

『だから私は戦わねばならない―――彼女がいないことで埋めるのことの出来ない傷があるのだとしても―――!』

彼の守りたかった全てを守る力を与えてくれたのは、彼女だった。

「そうやって―――あなたは自分の心を切り刻んできたんですか……? 誰も責めることが出来ないから……自分だけを」

「「「莫迦かあんたはッッッ!!!」」」

はからずも、立ちあがった三人が同時に叫んでいた。
「そこまで言って―――どうして―――分かんねぇんだよ、あんたは!!」
守ると決めた人を。
強くなると誓ったあの人を。
そして共に闘う仲間を得た自分を。
己が戦いを曇りなく誇れる彼らが。

「うだうだ悩んでんじゃねぇよ。俺達みてぇな剣士って生き物は、剣を持つしか能が無ぇんだ!」
『だが、剣さえ持てば、戦う事も、護る事も出来る!』
「テメェだって剣士だろ! 剣しか持てねぇなら剣を持て!」
『やり直しではない、剣士の持つ剣は未来を斬り開くための力!』
「護るのは失敗した過去でも、それに絶望したテメェでもねぇ! 今テメェの側にいる大切な人達だ!」
『瞼を開き、前を見よ! その剣をもって、道を斬り開け!』
『「その力で現代(いま)を護って、未来を笑顔に変えてみせろっ!!」』
紅き竜が吠える。

「俺は口下手だからな…。あんたに何言ったらいいかわかんねぇよ。だから…!」
『故にッ!志を共にする、剣の戦士よ!!』
「『俺(私)達は、この剣で!全てを伝えるッ!!』」
雷を纏う獅子が吠える。

「守りたかったンだろ! 離したくなかったンだろ! だからアンタはその剣を握って離せないンだろ!!」
『ならば身を焦がし、心を握り潰すその念い、ワタシたちが斬り捨てる!』
「風雅が誇る心の刃でな!!」
獅子を冠した忍びが吠える。

そして……
「闇か…俺には、今の貴様の気持ちが理解出来る気がする」
「ブリットさん…」
「だからこそ、貴様はそこに居てはいけないのだと分かる!俺が…否、皆で…闇の中から引きずり出してやる!!」
完全なる銃師が、静かに吠える。


『俺は……私は……俺は………………戦わなければならない!!』
暴発寸前の力がグレートアークセイバーの全身にみなぎる。
相手が何人いようと、全身これ武器のグレートアークセイバーならば一掃できるだけの武装がある。
両手に片刃の剣を持ったまま、全砲門を解放する。
自身へのあらゆる攻撃を防ぐのは、ここまで鉄壁を誇っている超力場だ。
ただただお互いを守りたかった二人の思いが紡ぎあげた、最強の矛と最強の盾を持つ最強の剣。
だが、だからこそ彼らはあれを突破しなければならない。
守りたかったものを守ることが出来なかった絶望は、彼らにとっても打ち勝たなければならない”未来”だ。
決して負けるわけにはいかない”未来”だ。
故に彼らは、ここで膝を折るわけにはいかない。
そして―――彼を。
遥か遠い世界から、ただ志を同じくし剣を握った仲間を。
ここで屈させるわけにはいかない。

「奴のつけたあの仮面を叩き割る。あと一撃でいい。いくぞ」
ブリットの端的な指示に頷き、4機は散開する。
「あのフィールドを突破するぞ―――合わせろ!」
両腕に構えたエンジェマグナムを超高速で連射する。
”速射の牙”により間断なく打ち込まれる弾丸はしかし展開されたアーマードフィールドにはじかれる。
しかし今は足止めで―――十分。


「御剣流剣術…絶剣ッッ!!! 雷! 墜! 牙あああああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

飛び退ったウォルフルシファーに入れ違いで飛び込んだヴォルライガーの極大の落雷が墜ちる。
かつてあらゆるものを弾いた超力場を一撃で断ち切ったこともある、次元も斬り裂く最大の出力を誇る必殺剣。
だがそれすらも、交差させた片刃の剣と鉄壁のフィールドが受け止めた。
「届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
『うおおおおおおおおおおおおおっ!!』
まき散らされるエネルギーが二機の間で高まってゆく。
そして―――
「弾けた!?」
ついに過負荷に耐えきれなかったフィールドが弾ける。
同時に志狼が底の底までふりしぼったマイトエネルギーも相殺され消えた。
「――――――!!!!」
残心をとることすらままならないほどの全力の一撃。
着地したその場で膝をついたヴォルライガーがそのまま深く身を沈める。
しかしグレートアークセイバーは尚も両腕の剣を振りかぶった。

「ロードクルスノヴァァァァ!!!」

「霞―――斬りぃぃぃぃっっ!!!」


左右から飛び込んだロードエスペリオンとクロスフウガが双剣に狙いを定め必殺剣をぶつける。
『ゥォオオオオオオオ!!』
振りかぶったところを止められたため両腕を広げた状態で一瞬、グレートアークセイバーの動きがとまる。

「Check Mateだ…………!―――”螺旋の牙”」

完全に無防備になった額へむけて、ウォルフルシファーがとどめを一撃を放つ。
―――が。
『――――――――――――ぁぁぁぁっ!!』
ブリットははじめて己の先見の能力を疑う気分だった。

超絶的な反応速度でわずかにのけぞったグレートアークセイバー―――

彼ですら止められないほど、完全に引き金をひかれた銃―――

撃ち放たれた弾丸―――

それがグレートアークセイバーの面をかすめて―――

同時に無防備となってしまう攻撃の一瞬をめがけて、グレートアークセイバーの胸の獅子が炎を吐きだした。

「――――――なっ!!??」
そこまでの反応をしたグレートアークセイバーが流石なら、さらに身をかわしたブリットはさらに上手と言えるだろう。
それでも収束された熱線がウォルフルシファーの肩部装甲を焼き払っていくのを、ブリットははっきりと見ていた。
「―――な!?」
「―――んな……!?」
渾身の一撃だったはずのそれぞれの必殺剣を、片腕で力任せに振り払う。
(まずい…………!!)
この瞬間、4機の勇者は全員が姿勢を崩して動きを止めていた。
それは、刹那の瞬間にも満たないような隙だったはずだ―――
それでも、全員がグレートアークセイバーの全砲門がそれぞれに狙いを定めたのをはっきりと見た。
(あと一手…………!!)
二手先三手先を読んで戦術をたてるのはブリットだけでなく他の人間も当たり前にやっていることだ。
ほんのわずか、刹那の一瞬、今回だけは、その予測を上回られた。
風が吹いたかどうかの本当に僅かな―――些細なずれを。
グレートアークセイバーがつかみかけたその一瞬。


「守れなかった……か。ならばキサマはどこまで堕ちていく」
興が乗ったか、何かの偶然か、あるいは己のライバルの様子を見ていたか。
『悲劇を背負い、嘆き悲しむか。だがお前にはまだ守るべき存在がある』
白銀を仮面をつけた皇と、黒き獣が静かに宣告する。
「無力を呪い、闇を纏うにはキサマは光りすぎだ。失せろ、ここにキサマの居場所などない!」
勇者忍軍最強の黒き皇、釧と愛機カオスフウガが、その白刃を閃かせた。

「―――皆伝、霞斬り!!」

『ァァァァァァァァァッッッ!!!!!』
ここまで超絶的な反応と戦果を見せたグレートアークセイバーだったが、容赦なく振り下ろされた刃に仮面を斬り裂かれ、ゆっくりと膝をついた。
「べらべらと喋りすぎたか」
『いや、足りないくらいだ』
カオスフウガが血糊を払うように刀を振るった。
「釧……何でお前……」
陽平が茫然と呟くが、釧は取り合わず背中を向けた。
『俺は……』
膝をつき尚も立ち上がろうと震えている。
全身はずたぼろで、誰がどう見ても動けるほうが驚異だ。

「まぁたずいぶんと面白そうなことやってやがんなてめぇは」

先に現れた忍らとは違い、剣呑な気配をむやみにまき散らしながら、三体目の黒い機体が現れていた。
『戦わなければ……』
「で、今度は一体誰だよお前……」
必殺剣の連発に肩で息をしながら、尚も陽平が誰何した。
「うるせぇ、てめぇらこそ誰だ。邪魔だからどっかいってろ」
「なっ……!」
突然現れて勝手なことを言い捨てる男に、陽平がこめかみに血管を浮かせる。
「もーちっと早く来てりゃあ面白いもんが見れたかもしれねーなー。ったくよぉ」
「キリヤ……何故ここに!?」
ウォルフルシファーに同乗しているサヤが声をあげた。
「知ってんのか、サヤさん?」
「ぁあ!?」
先ほどとは打って変わって声をかけられたことそのものが不愉快であるかのように唸り声をあげる。
『俺は……!』
「てめぇもいい加減うるせぇ。ちっと黙ってやがれ」
言うが早いかぼろぼろのアークセイバーの顔面を殴りつける。
それが止めになったように完全に意識を失ったアークセイバーが大の字に倒れた。
「チッ……下らねぇ。やる気失せちまった……」
突然現れて勝手なことばかり言う黒いロボットは、しらけた、とばかりに肩をすくめると、ジェット戦闘機に変形して突然飛び去って行った。
「おい……一体何なんだよ、あいつは!」
竜斗も不愉快そうに言う。
「申し訳ありません……彼は御影霧也といいます。あの黒いロボットはシャドウブレイド……いえ、詳しいことは戻ってから説明します。今はアークセイバーを」
「うぉっとそうだった! ……生きてっかな……」
状況が状況だけに手加減も出来なかったとはいえ、あれだけの攻撃をうけとめてよくぞ原型をとどめていると言いたくなる。
そこでダメージが上限を超えたらしく、和真の姿がアークセイバーの外へと転げ落ちた。
大小様々な傷を負っているが呼吸は安定しているようだ。
「艦へ連絡を、メディカルスタッフを―――」
「もうこのまま連れてったほうが早いだろ!」
クロスフウガが慎重に和真の体を掴みあげると、陽平は手のひらに巫力を集中する。
回復の能力はほとんど持っていないが、気休めにはなるだろう―――
(しかし……この人は……)
抱きかけた少し複雑な感情をふるって、クロスフウガは飛んだ。






「―――う……ぁ、はっ!?」
急速に覚醒する意識に驚き、和真は反射的に目を見開いた。
「……っ、た、痛て……」
全身をずきずきと痛みが襲う。
「! 気がつきましたか、カズマ!」
「和真兄ちゃん!」
「和真君!?」
「あ……? お前ら……?」
和真の顔を覗き込むサヤ、準、麻紀の表情が視界にはいる。
「俺は……? 何がどうして……?」
どうやらベッドに寝かされているらしい自分の状態を確かめようと、わずかに首をふって左右を見る―――それだけでもおっくうだったが。
大小様々な傷を負っているようで、全身に包帯がまかれ処置されているようだ。
衰弱したような疲労感と、筋肉痛のような鈍い痛みが全身をおおって指先もろくに動かせない。
「戦闘で傷を負ったのです。幸い命に別状はありません。詳しい経緯は追って説明しますので今はまだ休んでいてください」
「そう……か……」
端的なサヤの説明に、和真は曖昧な記憶を探りながら答える。
何か、ひどく悪い夢でも見ていたような嫌な気分だった。
「お前らも、心配かけて悪かった」
準と麻紀を見て詫びる。
「ううん……和真兄ちゃん大丈夫?」
「心配したわよ……ぼろぼろになって帰ってきたもんだから」
言葉の割に軽い調子なのは、目が覚めて少し安心したからだろう。
「悪かったよ……」
もっと強くあらねばならない。
「目が覚めたのか?」
「ブリットさん……?」
様子を見に来たもののどう声をかけていいか迷うような様子に、和真はいぶかしげに眉根を寄せる。
「あまり俺も言葉がうまいほうではないから何と言えばいいのか分からないが……見つけたものを、見失うな」
「…………?」
「それだけだ」
言うだけ言ってふいと踵を返すブリットを見送って、準と麻紀は何となく顔を見合わせて小首を傾げた。
「見つけた……もの…………?」
何が言いたかったのかは、正直よく分からないが、自分が記憶を失っている間に、何かあったのかもしれない。
少し落ち着いてから詳しい話を聞いてみよう……
そう思ってから、和真は再びまどろみに落ちた。









そして、完全に出て行き損ねた黒服の男が一人。
「……………………」
普段は無意味に自信と傲慢を振りまきながら犬歯をむき出しに吠えるように笑うが、今はつまらなそうに口をゆがめていた。
「……かはは、面白そうなことになってんじゃねぇの」
それでも、彼はいつもの調子でそう言った。
「完全に出遅れたみたいだが……ちらっとは見えた。
あん時俺を引っ張った力―――ありゃぁ……」
彼にとっては無論のこと、アークセイバーを追って来たら、ここについた。
「それにアークセイバーだ。あの様子じゃぁ……」
こちらの世界に出てくる直前に垣間見ることが出来たあの姿は、むしろ彼の待ち望んだ姿ではなかったか。
「面白そうなことになってんじゃねぇか」
御影霧也は、今度は愉快そうに口角をゆがめた


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