艦内の特に自立意識を持ったロボット達が、擬人化してからしばらく。
当初の混乱も収まり、諸々の問題も何とか落ち着いてきた頃。
ブリッジクルーのうち、アンドロイドであるが故に、ほぼ常駐するような形であったメイアやホログラフであるプラムも人間としての体を手にいれ、以前程の自由が利かなくなった。
よって、従来よりもローテーションの入れ替わりが増えている。
言い方を変えれば、彼女達の休息時間が増えていた。
といっても事務的な能力自体は決して減少しているわけでは無いのだが。
そして、様々な偶然も作用して。
普段はアンドロイドである、メイアとサヤ、そしてホログラフであるプラムの三人が揃って丸一日の休日となっていた。
「状況も落ち着いてる事だし、たまには三人で遊びに行くのもいいんじゃないかしら?」
艦長である綾摩律子にそう言われ、ふむ、とメイアは思案する。
それぞれの特性上、勤務中でも何かと接する事の多い仲間ではある。
同時に、他の勇者達以上に近い状態にあるとも言える。
(そうですね、こういう機会もそうそう無いでしょうし)
そう思い、サヤとプラムの二人に提案した。
「いいですね、行きましょう」
「湯煙女三人旅ですね!」
二人とも乗り気で即決する。
しかし残念ながら殺人事件は起こりません。
温泉にも入りません。

オリジナルブレイブサーガ「湯煙女三人旅〜シーサイドで起きた諸々の事の一部。回転寿司に隠された罠。手がかりはアイスクリームとともに消える〜ただし概ね嘘情報。」

「という事で、外出してきますね、マスター。クロノカイザーの調整も問題はありませんが、何かあればすぐ戻りますので……」
「分かってる、こっちは大丈夫だから、楽しんでこいよ」
艦内の勇者達が軒並み人間の姿になっており、戦力となる勇者ロボの搭乗者は艦内で待機状態となっている。
咲也とクロノカイザーも待機組だ。
ちなみにCRONOSからは不知火誠も待機組である。
「はい。では行って来ます」

「というわけで、出かけてきますね、カズマ」
「あ? ああ、そりゃ構わないが……色々気をつけろよ?
お前何か危なっかしいからな、変なヤツとか付いて行っちゃ駄目だぞ?
まぁメイアとプラムが一緒なら大丈夫だと思うが……」
正直かなり心配で付いて行きたいくらいだが、和真とアークセイバーも待機組である。
「本と和真君てば親馬鹿なんだから〜ダイジョブダイジョブ!」
「いや親じゃねーって」
気楽な調子でばんばんと背中を叩く西宮麻紀にげんなりと返す。
「では、行ってきますね!」
「ああ、楽しんで来い」
「いってらっしゃ〜い!」

「という事なので、出かけてきますね、瞬君」
「そうなんだ、行ってらっしゃい」
「ところで瞬君、フェリスは……?」
普段は瞬と傍らに狼の姿で居る事の多い、彼のパートナーについて尋ねる。
勿論フェリスも今は人間の姿になっているが。
「うん、今日もお酒に挑戦する、って……」
「そうですか」
どうやらお気に召したのだろう、まだ日も高いうちから酒というのに、小学生である瞬を一緒に連れてはいけない。
「でしたら、やはり今日は……」
「あ、ううん僕も遊びに行く約束してるんだ。大丈夫だから、行ってきなよ」
「はい、では……行ってきます」

という具合に、三者三様に出かけた三人だった。


「ぬぅ、とはいえ不安は不安だ……あいつ知らない人にもほいほい着いて行くんじゃないか?」
「親ばかここに極まれりねー……」
「どうかしたんスか?」
「お、志狼か」
「やっほ、志狼君」
和真がうんうん唸っていた所に現れたのは、ブレイブナイツの御剣志狼だった。
「実はかくかくしかじかでねー」
「これこれウマウマか。成る程な」
「いや今のやりとりで分かったのか?」
至極当然、という顔でやりとりする二人に和真がぼそりと突っ込みを入れる。
「サヤさんがメイアさんとプラムさんと一緒に出かけて目を離すのが不安だと」
「何で通じてんだ!?」
「あーそういう事なら、俺たちも見回りも兼ねて下に降りますから、それとなく見ときますよ」
「むぅ、色々気になるけど、よろしく頼む。他の二人も一緒なんだから滅多な事は無いと思うが」
志狼のパートナーであるヴォルネスも人間化しており、彼は出撃待機組ではない。
が、諸々の問題が起きた際の対処のため、艦内のいくらかの人間には艦長からそれとなく注意するように伝えられていた。
「はい、任せといて下さい」
親ばかそのものの(親では無いけど)和真の様子に苦笑しながら志狼は請け負った。


三人が落ち合い、街まで出てきてから。
「とはいえ、何処に行きますか?」
きょとんと尋ねるサヤに、メイアは微笑んで、
「そうですね……でも偶には目的無く歩くのも良いのでは?」
「あ、でしたら、まずは服を買いませんか?
私は普段いくらでも変更出来ますけど、今はそうはいきませんし、折角ですから」
プラムの提案に、サヤは楽しげに、メイアは僅かに引きつった笑顔を見せてから同意した。


「こちらがマッコイさんオススメのお店ですね」
「…………」
「とはいえ、どういった服が良いのでしょう? よく分からなくて……」
何かを思い出しているのか思い出したくないのか言葉を失っているメイアをよそに、サヤが僅かに眉根を寄せる。
たいていは専用の服であるか、ラストガーディアンクルーの制服であるので、ほとんど他の服に着替える機会というものは無い。
「じゃあ、私がいくつか見繕いましょうか?」
この中では比較的着替える機会の多い(といってもホログラフなので映像の設定が変わる、という事だが)プラムが言い、
「じゃあ、お願いします」
「……え、あ、そうですね……プラムなら」
サヤとメイアはプラムの目利きに頼る事にした。

「まずはこんな感じでは如何でしょう?」
試着室のカーテンを開けたメイアとサヤは、ミニスカート姿だった。
サヤが普段着ている服のデザインはロングスカートだし、これは中々新鮮な姿と言える。
「なるほど、こういう物も可愛らしいですね」
確認するようにくるくる回って自分の服をためつすがめつする。
「では、次いってみましょう!」

再び試着室より現れた二人は、一点してボーイッシュな雰囲気でまとめていた。
メイアはジャケットにジーンズ、サヤはやや大きなトレーナーにオーバーオール。
「パンツルックもお似合いですね〜」
「こちらのほうが動き易いかもしれませんね」
「普段こういう服は着ませんからね」
三人ともこれもまんざらでは無いようだ。
「それでは、次はこちらはどうでしょう?」


今度は、二人とも紺色を基調とした、しかし対照的なデザインの服だった。
「というか、これはセーラー服では?」
「胸のワンポイントが可愛いですね」
メイアはセーラー服、サヤはブレザーだ。
ちなみにワンポイントというのは校章の事だったりする。
「二人ともよくお似合いですよ」
何でこの店はデフォルト制服があるんだろうか。
「ではでは、こちらは如何ですか?」

「エプロンにもフリルがたくさんで可愛いですね〜」
「だからこれはメイド服では……」
メイアの言うとおり、出てきたのは紺のワンピースに白いフリルつきのエプロン、頭には同じくフリルのついたカチューシャを着けた服。
ようするに、メイド服だった。
早くも嫌な予感が的中してテンションが下がり気味のメイアだった。
「あ、これなんかも可愛いかもしれません! 次はこれをどうぞ!」
対してプラムは絶好調らしい。

「変わったワンピースですね……刺繍が綺麗です」
「チャイナドレス、ですね……」
サヤは青、メイアは赤を基調としたチャイナドレスだ。
ロングタイプで、しかし横のスリットがかなり際どい所まで入っており、真っ白な腿が非常に栄える。
「素晴らしいです! よくお似合いですよ! お次はこちらです!」
メーターが振り切れ出したプラムは次々と服を持ってくる。
ただし、どう見てもそれらは街中を歩くに適した服とは思えないが。
(プラムはこういう趣味があったんですね……)
能天気に喜ぶサヤを横目に、メイアは同僚の意外な姿を見た気分だった。



結局、2時間ばかりかけて三人は何着かの服を買い、そのうちの一つに着替えた。
ちなみに荷物はラストガーディアンへ郵送した。
何せ女三人で荷物持ちがいないのだから。
それはそれとして。
「このまま街中を散策するのもいいですが……何かイベントがあるそうなので、シーサイドパークに行ってみませんか?」
「良いですね、行きましょう!」
「イベント……ですか?」
普段は比較的大人しい三人も、わいわいと話しながらシーサイドパークへと向かった。
三人よれば、とはよく言ったもので。

受付にて。
「アンドロイド二枚にホログラフ一枚です。」
「は?」
自信を持って告げるサヤに、受付上は笑顔のまま首を傾げて見せた。
苦笑してプラムがサヤに言う。
「サヤさん、今の私たちは……」
「ああっそうでしたね! 人間三枚です!」
「そうですけどそれも違いますよ」
嬉しげに訂正するサヤに、今度はメイアが言った。
「はい、大人三枚ですね」
流石に受付のプロ(アルバイトだけど)、最後まで笑顔を崩さずに合計の料金を伝えた。
(美人だけど変な人たちだわ……)
そういう客も最近結構多いので、ある程度慣れてしまった所もあるが。
「はい、どうぞお入り下さい」

「先ほど案内で確認しましたけれど、イベントまではまだ少し時間があるようですね」
「じゃぁ他の出し物を見て回りますか?」
「……あ、そうだ」
受付で貰ったパンフレットを広げて相談していた時、サヤがふと思い出した様に声を上げた。
「どうかしましたか?」
「あの、私この機会に何かお食事を頂いてみたいと思うのですが」
メイアだけは元々味覚が備わっているが、食事を必要としているわけでは無いし、アンドロイドであるサヤも、ホログラフであるプラムも調理こそ出来ても普段飲食は出来ないようになっている。
今も「お腹が空いた」という感覚があるわけでは無いのだが、言われてみれば、確かに今なら飲食も可能だろう。
フェリスなどは酒に挑戦したと言っていたし……
「じゃあまずは腹ごしらえ、ですね」
「ええと……」
何に挑戦するか、と辺りを見回す三人。
「あ、あれにしましょう!」
サヤが指差した先には、『光る!回る!海鮮寿司ベルト』と書かれた看板を掲げた店があった。
それを見た誰もがベルト? しかも光るの? と疑問符を挟む事で有名だが、その例外である人間には店主と話が合う、という事でまた有名だったりする。

「お寿司屋さん、というわけですね」
自動ドアをくぐると、大きな部屋の中央に、何人かの調理する人間と、それを囲むようにぐるりとベルトコンベアが配置され、その上を……
「大変です! 何か回ってますよ!」
ゆっくりとした調子で反時計回りに、色分けされた皿が回っている。
無論、その上に乗っているのは握り寿司そのものだが。
「回ってますね〜」
「確かに回ってますね」
感心したように頷き合う二人に、メイアは苦笑気味に同調する。

(いや、何で?)
店内に居たスタッフもお客も、回転寿司がベルトコンベアに流され回っている様子にしきりに感心する女性に心の中で突っ込みを入れる。
笑顔の(こちらもプロだ)スタッフに案内され、三人はカウンター席に横に並んで腰かける。
目の前を様々な握り寿司や、時にはから揚げ等等が流れてゆく。
「成る程、こうして流れていく商品から好みのものを取り上げるわけですね」
「お皿毎に色分けされて商品の値段が分かるようになっているわけですか……」
常識と言えば常識である回転寿司のシステムにしきりに感心する二人は、兎に角浮きまくっていた。
「一応メニューもあって好きな商品が注文出来ますよ」
流れていく皿と同じペースで首を回す二人にメイアが告げる。
「こうして何時までも眺めていても何も進みません。
挑戦には勇気が必要ですが、我々とて勇者達と共にある存在、こんな事で負けるわけにはいきません」
やたらと緊張した様子で拳を握るサヤにプラムも同調する。
「そうです、私達には未知の領域ですが、挑戦無くして進歩はありません」
「いや、いくら何でも回転寿司にそんな戦う前みたいに力まなくても……」
初体験らしいのは分かるが、今日日子どもだってそこまで緊張したりはしないだろう。
流石にメイアは冷や汗を浮かべ始る。
「では、いざっ!」
タイミングを計り、横に流れていく皿に手をのばす。
「あ、あれ? ああ……」
失敗した。
サヤが狙っていたらしいマグロは、無常にもコーナーの向こうへ流れていった。
「くぅ、こんな事ではくじけません」
「その意気です、サヤ」
「頑張って、サヤさん」
こちらはあっさりと一皿目を手に入れたメイアとプラムがサヤを励ます。
「はいっ、でやっ! あ、やりました!」
二度目にして成功したサヤの手にあった皿には、プリンが乗っていた。

いきなりデザートになったが、プリンを完食して、次なるネタを探す。
「甘くて美味しいですね〜。しかし今度はお寿司にしましょう。コツは掴みましたからね……ていっ」
問題無く二皿目を手にした三人はそれを口に運ぶ。
「―――ふぐっ!?」
それを思い切り口に含み、サヤは鼻先から突き抜ける衝撃に思わずむせる。
「な、な、な、な……? こ、これは一体? まさか何かの劇物がっ!?」
「落ち着いて下さい、サヤ。ひょっとして……」
横からひょいと箸を伸ばして、サヤの前の皿に残ったもう一つの寿司のネタをめくる。
そこには、薄緑色の―――
「ああ、ワサビですね」
「こ、こ、これがわひゃびといひゅものでひゅか……知識としてはありましたけど、これほどとは……」
「落ち着いて。お茶かお水で……」
「そうでふ、先ほどの甘いプリンならばっ!」
辛いのと甘いので中和しようというのか、折りよく流れてきたプリンを掠め取り口に運ぶ。
先ほどと一転した素早い動きにメイアは用意したお茶を手に呆然と固まっていた。
「ふぅ、成る程、これなら大丈夫そうですね。そうです! ワサビのあるお寿司ごとにプリンを食べれば大丈夫ですね!」
名案だ、とばかりに気をよくするサヤ。
(というかそこまでしてワサビを食べなくても……)
サヤは次なる獲物は、とばかりに握り寿司とプリンを手に取る。
「あ、あのお客さん……?」
「はい?」
カウンターの向こうから、寿司を握っていた青年が声をかけられ、サヤは手を止めて顔を上げる。
「その……何でしたら、サビ抜き……ワサビ抜きで作りますよ?」
見るに見かねたらしい青年言葉に、僅かにがっかりしたような顔を見せてから、サヤは
「じゃあ、それでお願いします。ええと……こちらの。これを下さい」
メニューを指差して注文するサヤ。
ちなみにそれは、玉子だった。

その後も間違えてベルトコンベアの上にお皿を返してしまったり、お茶用のお湯を間違って手にかけてしまい軽度の火傷を初体験したりしながら、概ねつつがなく食事を終えた。
「いや、美味しかったですね〜、プリン」
「そうですね……お食事というものはこんなに楽しいものだったのですね」
サヤとプラムが感慨深げに初体験の感想を話し合う。
それを微笑ましく見ながら、メイアがパンフレットを取り出し声をかける。
「折角遊園地に来たのですし、アトラクションにも挑戦してみましょうか」
「いいですね〜どれから行きましょうか?」
「あ、じゃあ私あれに乗ってみたいです!」
そう言ってプラムが指差したのは、園内でも最も大きなアトラクションの一つ―――
「ジェットコースター、ですね」

<アトラクション内は撮影禁止です。ご了承下さい>

その後、げっそりした金髪の女性と、やたらハイテンションな桃色の髪の二人の女性が見かけられたとか。
「いやー、面白かったですね〜! 次はこちらのフリーフォールに行って見ましょう!」
「いやあの、勘弁して下さい……」
振り回されて気分が悪くなったのか青い顔をしたメイアが言うが、やたらハイテンションな二人には聞こえなかったようだ。
「さあ行きましょう!!」
気づきもしないのか手を引く二人に嘆息しながら続く。
というか、そこまで辛ければ休んでいればいいのに。

<アトラクション内は撮影禁止です。ご了承下さい>

「面白かったですね〜!次は……あ、見てください、『傾斜角60度のスーパーウォータースライダーが更にパワーアップして帰ってきた!何と傾斜角120度のアルティメットウォータースライダー!』だそうですよ!」
「垂直どころか反り返ってるじゃないですか!?」
蒼白になったメイアが突っ込みを入れるが二人には全然聞こえてない。
「『さらにキャストオフシステム搭載でクロックアップ並の加速を体験!』だそうですよ、これは行くしかないでしょう!」
ぐぐぅ、と拳を握り締めるプラム。
「いつの時代も未知の世界を求めて旅立つ者を冒険者と呼ぶのです!ゴーゴー!」
「それ番組違いませんか?」
ノリノリで追従するサヤに知るはずのない知識から突っ込みをいれるが、やっぱり無視された。

<アトラクション内は以下略

「ぅぅ……疲れました……」
メイアはぐったりしたままベンチに座っていた。
その後も散々絶叫マシンばかり連れまわされて、止せば良いのに律儀に一緒に乗るものだからふらふらになっている。
「メイアさん、どうぞ」
プラムが両手に持ってきたソフトクリームの片方を差し出す。
「ありがとう……」
礼を言って受け取ったが、正直食欲などありはしない。
「見てください! 奮発して三段にしてもらいましたよ〜!」
嬉しげに高々と積まれたアイスクリームを見せて駆け寄ってくるサヤ。
「そんなに走ると……あっ!」
影から現れた人とぶつかりかけて、双方が慌てて身をかわす。
「わっと……ごめんなさい」
急ぎの用事でもあるのか、相手は駆け足で去っていった。
「気をつけないと危ないですよ……サヤ?」
見ると、先ほどの位置でサヤが立ち尽くしていた。
メイアとプラムの側からは背中しか見えないのでどうしたのかとメイアが歩み寄る。
「……メイアさぁん……」

泣きそうな声で振り返ったサヤの手には、コーンだけが残されており。
見事なまでに、三段に並んだアイスが足元に落ちていた。
「ぅぅ……アイスが……」
「ああほら、そんなに泣かないで。私の分をあげますから……」
「ぅぅ……すみませんメイアさん」
何処かのロボットのようにめぅ〜と泣きながら、渡されたソフトクリームをそのまま口に運ぶ。
一口含んで、
「…………!」
目に見えてぱああ、と表情を明るくする。
「こっ、これ、とっても甘くて冷たくて美味しいですね! 予想以上です!」
目をきらきらと輝かせながらソフトクリームを頬張る。
鳴いたカラスがもう笑ったサヤに、メイアとプラムは顔を見合わせてから微笑む。
「ほら、ほっぺたについてますよ」
メイアはハンカチを取り出して拭ってやる。
何となく彼女と一緒に来た勇者が、やたらと親ばかなのが分かるような気がする。(誰が親ばかだ誰が)
「何だかメイアさん、お姉さんみたいですね」
「じゃあ、三人娘じゃなくて三姉妹探偵団ですね」
分かっているのかいないのか嬉しげに言うサヤに、メイアとプラムは思わず吹き出した。


「おや? 君達も来ていたのか?」
次は何処へ向かうかと歩いていた三人に、声がかけられた。
「ロードさん?」
振り向くと、両手にジュースらしきカップを持った長身の男性が立っていた。
誰であろう、フェアリスの騎士をもって任ずる鋼鉄の騎士、ロード―――の人間の姿だ。
「ロードさんは、フェアリスさんとデートですか?」
屈託無い様子で尋ねられ、僅かに照れたように笑う。
「そうだ、もうすぐパレードが始まるぞ。君達も見ていくのか?」
「もうそんな時間ですか、じゃあ行きましょうか。」
その時、遠くから、わぁぁ……という歓声が聞こえ始める。
いや、歓声……?
「違う、悲鳴です!?」
緊張感が走る。

「ディメンションディストーションの発生を確認!」
「これは……大量のロボット兵が街に投下されてます!」
普段この台詞はメイアが口にする事が多いが、今日はメイアが休暇であるため、シャルロットと応援で入った羽丘リリィが艦長の綾摩律子に報告する。
「白兵戦が出来る人やロボ……ットをすぐさま派遣して!それと、下に下りている人たちにも出来るだけ連絡を!」
「了解!」

「すぐに白兵戦の出来る方たちがラストガーディアンから派遣されるでしょう。私達も避難誘導に協力しましょう」
メイアの言葉に二人も頷き駆け出した。
地上に降りていた志狼たちはロボット兵との戦闘を開始する。
「付近の人々の避難が優先だが、油断するな!」
普段の倍の人数になったブレイブナイツにヴォルネスと志狼が言う。
散開する仲間を背中で見送り、志狼とふとヴォルネスに尋ねる。
「ヴォルネス、戦えるのか?」
今ヴォルネスは武器を持っていない。
普段は召喚時にナイトブレードを持っているが、擬人化した時甲冑こそ着ていたが武器はもっていない。
「……ああ、剣があればいいのだが……」
志狼の持つナイトブレードは当然一振りしか無い。
艦の購買に行けば竹刀や木刀から聖剣魔剣の類まで(何故か)手に入るが、今そんな悠長な事は言ってられない。
何か無いかとあたりに視線を巡らせる。
と―――
「ヴォルネスさん!」
声を掛けたのは、二人のやり取りを耳に挟んだサヤだった。
「でしたらこれを使ってください!」
ぱたぱたと駆け寄り、袋に入っていた木刀を差し出す。
値段の書かれたバーコードのシールの上から、更にビニールテープが貼られている。
「カズマのお土産にと先ほど購入したのですが。ちなみにジュンとマキにはクッキーとチョコレートを」
「ああっ、私も瞬君にお土産を買わないと!」
「緊張感ねぇなオイ!」
呆気に取られるヴォルネスの代わりに志狼が突っ込む。
「と、兎に角助かる。有難う」
丁寧に礼を返し木刀を受け取る。
「ヴォルネス」
声をかけ、志狼がヴォルネスの肩に触れる。
そこから、ヴォルネスの体に雷のマイトが流れ込んだ。
「そのままじゃ流石にキツイと思ってな。後は自分で出来るだろ?」
「ああ、任せろ」
体にみなぎる力を確認しヴォルネスが笑む。
「しかし、不思議な感じだな……」
「ああ、こういう時が来るとは思わなかった」
戦場では常に一緒に戦うパートナー。
それは文字通り一心同体となり戦うパートナーだが、肩を並べて戦うのは始めてである。

「何か今、すっげえ心強いぜ」
「私もだ、志狼」
ふっと笑い合うと、二人は手の中の剣を握りなおし構えた。

いつも以上に白兵戦の可能な人数が増えている事もあってか、戦闘は間も無く終わりを告げた。
あたりには無数の残骸が静かに骸を晒している。
しかし、剣を手にした者達はまだ気を抜かない。
「いつものパターンだと……」
「―――来るぞっ!」
倒したはずのロボット兵の残骸がぶるぶると震えだし、滑る様に一箇所に集まり始める。
やがてそれは20メートルに迫る巨大なロボットとなった。
「ちぃ!」
「引くぞ志狼、すぐに応援は来る―――」
「分かってるよ、皆も逃げろっ!」
志狼達のほかにも周囲で戦っていた者達が散開する。
「―――あっ!!?」
避難誘導を手伝っていたメイアは、施設の影に子どもが一人残されているのに気づいた。
親とはぐれたのか、一人うずくまって泣いている。
そこは、巨大ロボットの進行方向真正面にあった。
他の者達は気づいていない。
振り返り応援を呼ぶ暇も無くメイアは駆け出した。

「メイア!?―――志狼!!」
視界の隅を駆ける人影に気づいたヴォルネスがパートナーの名を呼ぶ。
巨大ロボットはすぐそこまで迫っており、メイアの向かう先には―――取り残されたらしい子どもが一人。
今から追うのはヴォルネスには無理でも脚力を増幅し加速する電光石火を扱える志狼なら―――
「何―――くっ!!」
それでも間に合うか否か。
子どもの下へたどり着いたメイアは抱き寄せて―――振り返り迫り来る巨大な影を見上げる。
足元になど気にも留めないほど無造作にその足が―――
(私は大丈夫だからとにかくこの子だけでも―――)
そう思い、
(そうか、今の私は機械じゃないから―――簡単には修理は出来ないんだろうか)
壊れても直せばいい―――無意識にそう思っていた事に気づく。
その一瞬の思考に、行動するチャンスを失っていた。
「―――!!??」
迫る影に反射的に子どもを下に庇い目を閉じる。
想像した衝撃は―――いつまでたっても来なかった。
「メイアさん、大丈夫ッスか?」
「志狼さん……?」
掛けられた声に目を開くと、短剣サイズにしたナイトブレードを携えた少年の姿があった。
さっきの巨大ロボットは、と目を向けると―――
「クロノカイザー……マスター」
クロノカイザーに弾かれ大きく後退していた。
「行きましょ、ここにいちゃ邪魔になる。立てるか?」
最後の質問はメイアでなくその腕の中にいた少年に掛けられたものだ。
こくりと頷くのを見て、志狼が少年の手を引き立たせる。
メイアは差し伸べられた手を辞退し自分で立ち上がった。
そして、クロノカイザーを一度振り返り、志狼らを追い走り出した。

「咲也!」
「アークセイバー……和真か」

「他は大体片付いたみたいだ。こいつで最後だな」
「そうか……ならば一気に決める!クロノソード!!」
「賛成だ、ブレイバーソード!!」
それぞれの剣を取り出した二体の勇者が剣を構える。
「エンドフィィィィルド!!」
「ヴォルテック、トルネードッ!!」
クロノソードに発生したエネルギーと、アークセイバーの胸から放たれた電磁波を纏った竜巻が重なり、ジャンクで出来上がったロボットを空中に縫いとめる。
「はあぁぁぁぁぁっ!」
「チャージ、アップ!」
クロノカイザーがクロノソードを時計回りに回転させ、アークセイバーはブレイバーソードを正眼に構え、それぞれの剣に光を集める。
「「ダブル・ヴォルテック・スラァァァァッシュ!!」」
スラスターを吹かし、高速で接近した二機が交差するように残骸で出来た巨大ロボットをX字に切り裂く。
一瞬の間を置き、ロボットが大爆発を起こした。

帰還する前、咲也はメイアの元に降り立った。
「マスター……」
「メイア、無事で良かったがあまり無茶はするなよ」
「すみませんマスター。今の私はこの体ですから、怪我などしては……」
「メイア。それ以上言えば俺は怒るぞ」
「マスター……?」
「俺は、そんなつもりで言ったんじゃない」
この事態がいつまで続くのか分からないが。
今がどうであるとか。
普段がどうであるとか。
それが問題なんじゃなく。
「そうですね……ごめんなさい、咲也」
「ああ、じゃあ先に帰ってるからな」
「はい、お気をつけて」
再びセイバークルーザーに乗り込む咲也を見送りメイアも踵を返す。
そこには、プラムとサヤが微笑んで立っていた。



「パレード、中止になっちゃって残念でしたね」
夕暮れ時。
三人は並んで夕焼けを眺めていた。
特に理由がある訳でもない。
ただ、今日の、何気ない一日の締めとして、何となくそうしてみたのだ。
「代わりに、こんな綺麗な夕焼けが見れたんですから、良しとしましょう」
「そうですねー……」
「でも次は、素敵な方と一緒に来たいですね」
プラムがロードの姿を思い出しているのだろう、微笑みながら言った。
遊園地がデートスポットの一つに数えられる事は、三人も知っている。
本来ならば、それは望むべくも無い想いなのかもしれないけれど。
「そうですね。でも……」
メイアはそこで一息ついた。
「また、三人で来ましょうね」
友達と遊びに来たって、いいのだ。
「はい」
「まだまだ回ってないアトラクションも多いですからね〜!」
「あ、でも絶叫マシンはもう……」
わいわいと騒ぎながら帰途につく。
そんな三人の後姿を、夕焼けが暖かく照らしていた。



/終。



おまけ



こんどこそおしまい。