
蜘蛛娘@ガテン系
「よーっし、三雲(みくも)ーっ、運び上げてくれー!」
「うぃーっす!」
架け替え用の極太の超高圧電線を肩に担いで、三雲綾女(あやめ)は鉄塔を上り始める。
並みの作業員は彼女ほど早く鉄塔を上り下りできないし、電線自体も重いので手間のかかる作業になる。
それを綾女に任せることで、時間も労力も随分と楽になったという。
ここは山奥の超高圧送電路。
その保守現場で働く綾女は、改造人間――蜘蛛娘だ。
ヘルメットの下のショートの髪と、まだ十代のあどけなさの残る顔は、生身のままとさほど変わらない。
タンクトップ姿でむき出しの腕も、よく日焼けしているけど見た目は生身と大差ない。
しかし改造手術で並みの(というか生身の)男の作業員を遥かに上回る筋力が、その腕には備わっている。
ちなみに胸の大きさは、それなりにある。
大胸筋は強化手術を受けたが脂肪の塊である乳房は生身の状態なので、ちゃんと柔らかい。
綾女が鉄塔を上る動きに応じて、たぷんたぷんと揺れている。
そして生身と決定的に違うのは腰から下だ。
それは明らかに蜘蛛の形状で、八本の脚が備わっていた。全体は黒く、繊毛に覆われている。
綾女は、その八本の脚を器用に使って鉄塔を上っているのだった。
ちなみに下半身には下着を含めて衣服は着けていない。蜘蛛の身体で着られる服などないからだ。
臍の下の繊毛を掻き分ければ女の子の機能も備わっているが、普通にしていれば見えることはない。
そこだけ前張りでもして隠そうとすれば、かえってイヤらしいだろう。だから何も隠さない。
運び上げた電線を、鉄塔の上で待っていた仲間の作業員たちに託し、綾女は鉄塔を下りていく。
下りるときは頭を下にするが、べつに怖くない。蜘蛛娘になって、上下逆さの行動にも慣れた。
綾女は早く鉄塔の上の作業も任せてほしいと思っているが、それには資格が足りないらしい。
工業高校在学中に電工二種を取ったけど、超高圧を扱うには別の資格が必要なのだそうな。
べつに人間じゃないんだし改造人間だし、そのへんは大目に見てくれてもいいんじゃね? と思うけど。
超高圧に感電しても、たぶん死なないし。
高校卒業間際に改造手術を受けて蜘蛛娘になったことは後悔していない。
手に職をつけて働きたいと思っていた自分には、改造人間になったことで仕事の選択肢が広がった。
その中でも、いまの仕事を選んだのは正解だったと思う。
山奥は空気がいいし、高所作業は蜘蛛娘の能力を最大限に活かせる。
周りから奇異の眼で見られることがないのもいい。山の中で部外者と出会うことは滅多にないから。
いまどき改造人間自体は珍しくないけど、人間とかけ離れた姿の蜘蛛娘は、やはり好奇の対象だ。
いまの職場に入った当初の同僚の反応にも少なからずそれがあり、綾女は開き直って言ってやった。
「はい、下半身は蜘蛛です。手術で腰から下をぶった切られちゃいました。でもエッチはできますよ?
ちゃんとその機能がついてますから。ヤってみたいです? あたしにも相手を選ぶ権利はありますけど」
もちろん、口先ばかりではなく自分の能力は働きぶりで証明してみせた。
いまでは綾女は職場に欠かせないメンバーだ。
なおかつ胸はそれなりに大きいし、顔もそれなりに悪くないのでアイドル扱いされてもいる。
飲み会の席ではセクハラもされるけど、いちいち気にしてはいられない。
「綾女ちゃんよぅ、最近またオッパイ大きくなったんでねーか?」
「もうっ、山田さん。蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにして、鉄塔から逆さに吊るしちゃいますよ?」
「怖えーっ、生身の人間が改造人間には逆らえねーっぺ」
同僚には若い男性社員もいるけど、元ヤンキーだったりしてすでに子持ちの既婚者ばかりだ。
蜘蛛娘でもいいと言ってくれる相手がいれば、綾女も彼氏を作ってみたいと思うけど、出会いの機会がない。
休みの日にあちこち出歩く気にならないし。蜘蛛娘の姿をキワモノ扱いされるのもムカつくから。
その点では、改造人間になったせいで日常生活には不便が伴っているといえるかもしれない。
まっ、まだ十九だし。いまは仕事が面白いし。
蜘蛛娘である自分自身に概ねは満足して、綾女は日々、元気に働いているのであった。
【終わり】